夏目漱石の『吾輩は猫である』の冒頭

夏目漱石の『吾輩は猫である』の冒頭

 

吾輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生れたか頓(とん)と見當がつかぬ。

何でも薄暗いじめじめした所でニヤーニヤー泣いて居た事丈は記憶して居る。

吾輩はこゝで始めて人間といふものを見た。然(しか)もあとで聞くとそれは書生といふ人間中で一番獰悪(だうあく)な種族であつたさうだ。

此書生といふのは時々我々を捕(つかま)へて煮て食ふといふ話である。